地面を踏みしめる足は、鉛の足枷をつけられたように重たくて、公園のベンチに一人ポツンと腰かける大介が視界にうつった。
 大介の隣に腰をおろして、めまぐるしい勢いで進んだ出来事から、やっと一息つけたような気がした。なにを話せばいいのか分からなくて、言葉が浮かんでくるまで、じっと口をつぐんだ。
「大介、お父さんのことありがとう」
「いや、ボクはなにもしてないよ。それよりも、おじさんの身体は大丈夫なの?」
 かろうじて理解できた先生の話を、さらに簡略して伝える。
「脳梗塞だって。命に別状はないみたいだけど、なにかしら後遺症が残るだろう、って先生が言ってた」
「脳梗塞、後遺症。そうか……」
 単語をおうむ返しにする大介を見て、私も先生の前でこうゆう反応をしていたのかもしれない、と思った。私たち高校生には、そのぐらい馴染みのない言葉で、想像がつかないことなのだ。
「私ね……」
 公園に着くまでに考えたことを、大介に言うべきか迷っていた。でも、私がギターも歌もヘタクソだったころから知っている大介には、ちゃんと伝えなきゃいけない気がした。いや、大介にではなく、私自身に言い聞かせるためかもしれない。
「東京に行くの止めようと思う。私が東京に行って、お父さんになにかあったらって考えたら、呑気に歌ってなんかいられないよ」
 それを聞いた大介は、なにか言いたそうな顔をした。それには気づかないフリをして、やり場のなくなった視線を足下に逃した。
 空の暗さが落ちて、真っ黒に染まる地面に、私の心はどこまでも飲み込まれていくようだった。