お父さんが目を覚ましたのは、病院に運ばれてから三日後のことだった。
 寝起きの開口一番に「よく寝たな。ここはどこだ?」と言って、間抜け面で病室を不思議そうに見回していた。お父さんの意識が無事に回復して心の底から安堵した反面、あまりにも呑気な発言に呆れて言葉も出なかった。
 お父さんと一緒に、担当医の先生から脳梗塞で倒れたことについて、あらためて説明をしてもらった。倒れる寸前にお父さんが憶えていたのは、急激な眠気が突然襲ってきた、ということらしい。その応えに、先生も驚きを通り越して、困り顔で苦笑していた。
 次の日には、お父さんの希望で、個室の病室から一般の病室へ移動することになった。
 学校が終わると、お父さんの病室に行って、身の回りの手伝いや話し相手になったりした。お父さんと顔を合わせて話をしたのは、おかしなもので数ヶ月ぶりに感じられた。こうした何気ない会話をできることが、意外と親子の時間かもしれないな、なんて思った。
 お見舞いが終わって家に帰ったら、慣れない家事をなんとか片付けた。身体の疲れが抜けない日なんかは、そのまま寝てしまったりもした。体力的にも大変だったけど、お父さんが家にいない、という精神的な疲れの方が大きかったかもしれない。
 そんなお父さん中心の日々を送るうちに、お父さんのために私ががんばらなきゃいけないという気持ちがより一層強くなった